よもやま茶飯事

心に浮かんだことを書き綴ります

枕草子・第23段「すさまじきもの」(第3回/全3回)

枕草子・第23段「すさまじきもの」の最終回。日常生活で生じる興覚めな出来事が綴られます。当時の都で人々がどんな暮らしをしていたかが垣間見えます。

 

枕草子・第23段「すさまじきもの」(第3回・最終話)

 

よろしう詠みたりと思う歌を
まずまず上手く詠めた歌を

 

人のがり遣(や)りたるに 返しせぬ
人の元へ持たせて行かせたところ、返歌がないのは興ざめである

 

懸想人(けそうぶん)は いかがせむ
恋の相手への思いを託した手紙なら、(返事がなくても)しょうがないが・・・

 

それだに おりおかしうなどある
それでも、折々の季節の風情がある時に手紙を送ったのに

 

返事(かえりごと)せぬは 心劣りす
返事をしないのは、見劣りする感じがする

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枕草子・第23段 すさまじきもの(第2回/全3回)

枕草子・第23段のパート2の「すさまじきもの」(興覚めするもの)は、人間にまつわるお話です。

 

枕草子・第23段 すままじきもの 第2回

 

験者(げむざ)の 物の怪 調ずとて
修験者が魔物を調伏するとして

 

いみじう したり顔に 独鈷(とこ)や数珠(じゅず)など持たせ
たいそう得意そうな顔で、独鈷(※)や数珠などを持たせて

密教で用いる仏具の一つ。中央に握り部分があり、両端は尖った形状をしている

 

 

 

せみの声に絞り出して 読み居たれど
セミのような声を絞り出し、座ってお経を読んでいるが

 

いささか去りげもなく 護法(ごほう)もつかねば
少しも魔物は退散する様子もなく、護法童子も憑座(よりまし)につかず(※)

※修験者の霊能力の一つで、仏の使いである護法童子を操ること。ここではそれが出来ないと書いています

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枕草子・第23段 すさまじきもの(第1回/全3回)

枕草子・第23段は「すさまじきもの」。不調和で興覚めするものがテーマです。ミスマッチや場違い、期待はずれといった出来事が描かれます。

 

第23段 すさまじきもの (第1回/全3回)

すさまじきもの
不調和で興ざめするもの

 

昼ほゆる犬 春の網代あじろ) 三四月の紅梅の衣(きぬ
昼間に吠える犬、春の網代(※1)、3月や4月の紅梅(※2)の衣服

※1 魚を獲る仕掛けの一つ。冬に竹または木を組み並べ、網を引く形に川の瀬に仕掛けて、端に簀(す)を取り付ける。冬の風物詩なのに、春になっても残されているのが「すさまじきもの」

※2 衣服を重ねて着る際の色の組み合わせの一つで、表が紅、裏が紫。1月・2月に着用する。これも季節はずれの衣装が「すさまじきもの」

 

牛死にたる牛飼い 稚児(ちご)亡くなりたる産屋(うぶや) 
飼っている牛が死んだ牛飼い、乳呑児が亡くなった産屋

 

火おこさぬ炭櫃(すびつ) 地火炉(じくわろ)
火を起こさない火鉢(※)や いろり

※文末の「おまけ」参照

 

博士の打ち続き女児(おんなご)生ませたる
博士の職(※)にある者が続けて女の子をもうけていること

律令制で、諸官司にあって学生(がくしよう)の教育に従事した官職。大学寮に明経・明法・紀伝・算・音・書、陰陽寮に陰陽・暦・天文・漏刻、典薬寮に医・針・呪禁・按摩の各博士が置かれ、また大宰府・諸国にも明法博士や国博士が置かれていた。世襲制だが、女子では後が継げない。

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徒然草・第12段 同じ心ならん人と

秋は人恋しい季節、第12段では兼好法師が人間関係について語ります。

 

第12段 同じ心ならん人と

 

同じ心ならん人と しめやかに物語して
同じ心をもつ人と、しんみりと語り合い

 

おかしき事も 世のはかなき事も
楽しい事や、世のはかなき事などを

 

うらなく言い慰(なぐさ)まんこそ
心隔てなく語り慰め合えば

 

うれしかるべきに さる人あるまじければ
嬉しいことであろうが、そうした人はいるはずもなく

 

つゆ違(たが)はざらんと 向ひいたらんは ひとりある心地やせん
少しも相手と違わないようにと、向かい合っていれば、一人でいる心地がするだろう

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枕草子・第22段 生いさきなく、まめやかに

枕草子・第22段は女性のキャリアについて書かれています。清少納言は、親の勧めで結婚するより、一度、宮中で仕事をしてみるのも悪くないと語ります。

 

第22段 生いさきなく、まめやかに

 

生(お)い先さきなく まめやかに
先の見込みもなく、生真面目に

 

えせ ざいわい(幸い)など 見ていたらむ人は
偽りの幸せ(※)などを、守り通そうとする人は

※ 当時の「幸い」は、現在のような心の満足感ではなく、偶然により地位や経済力に恵まれる「棚からぼたもち」のような運の良さを言う。ここでは、親に勧められるまま、偽りの「幸い」である結婚をして、家にいる女性のことを指している

 

いぶせく あなづらわしく思いやられて
私にすれば、うっとうしくて、蔑むように思われて

 

なお さりぬべからむ人の娘などは
やはり、しかるべき方の娘などは

 

さし交らわせ 世のありさまも 見せ慣らはさまほしう
宮仕えをさせ、世の中のありさまも、見せて慣れさせたいもので

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徒然草・第11段 神無月のころ

兼好法師は山里にひっそりと暮らしている人を訪ねます。落ち着いた風情のある暮らしぶりに感心していると、残念な光景を目にします。

 

第11段 神無月のころ

 

神無月のころ 来栖野(くるすの)という所を過ぎて
初冬の陰暦10月の頃、来栖野(※)という所を通って

※ 現在の京都市東山区山科にある

 

ある山里に尋ね入る事侍(はべ)りしに
ある山里に人を尋ね入って行くことがあった

 

遥かなる苔の細道をふみわけて
遥か向こうまで続く苔生した細い道を踏み分けて進むと

 

心細く住みなしたる庵(いおり)あり
ひっそりと心細く住まわれている庵があった

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枕草子・第21段 清涼殿の丑寅の隅の 第4回 最終回

第4回・最終回は、前回に続き中宮・定子のお話の続きから始まります。村上天皇と宣耀殿の女御である藤原芳子とのエピソードです。村上天皇一条天皇の祖父にあたり、藤原芳子は中宮・定子から見ると曽祖父の弟の娘にあたります。

 

清涼殿の丑寅の隅の (4/4)

 

いと久しうありて 起きさせたまえるに
とても長い時間が経った後、村上天皇は起きられて

 

『なお この事 勝ち負けなくて止ませたまわむ いと悪ろし』とて
『やはり、この勝負をつけずに止めてしまうのは、はなはだよろしくない』として

 

下の十巻を 『明日にならば こと(異)をぞ 見たまい合わする』とて
下巻の10巻を、『明日にもなれば宣耀殿(せんようでん)の女御が、別の古今集の本を調べ合わせするかもしれぬ』ということで

 

『今日定めてむ』とて
『今日決着をつけよう』とおっしゃり

 

御殿油参りて 夜ふくるまで 読ませたまいける
灯りに火を燈されて、夜が更けるまで、試験の和歌をお読みあそばされた

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