よもやま茶飯事

心に浮かんだことを書き綴ります

枕草子・第23段「すさまじきもの」(第3回/全3回)

枕草子・第23段「すさまじきもの」の最終回。日常生活で生じる興覚めな出来事が綴られます。当時の都で人々がどんな暮らしをしていたかが垣間見えます。

 

枕草子・第23段「すさまじきもの」(第3回・最終話)

 

よろしう詠みたりと思う歌を
まずまず上手く詠めた歌を

 

人のがり遣(や)りたるに 返しせぬ
人の元へ持たせて行かせたところ、返歌がないのは興ざめである

 

懸想人(けそうぶん)は いかがせむ
恋の相手への思いを託した手紙なら、(返事がなくても)しょうがないが・・・

 

それだに おりおかしうなどある
それでも、折々の季節の風情がある時に手紙を送ったのに

 

返事(かえりごと)せぬは 心劣りす
返事をしないのは、見劣りする感じがする

 

また騒がしう時めきたる所に
また忙しく時流に乗って飛ぶ鳥を落とす勢いの人の所に

 

うち古めきたる人の
時流から外れた古めかしい人が

 

おのがつれづれと 暇(いとま)多かる習いに
自分の所在のなさと、ヒマを持て余す習いから

 

昔おぼえて ことなる事なき歌 詠みしておこせたる
昔覚えた、別にどうという事もない歌を、詠んで送ってくるのも興ざめである

 

物の折の 扇いみじくと思いて
何かの折、扇が大切と思い

 

心ありと知りたる人に 取らせたるに
その道に通じた人に、(扇に絵を描くように)渡しておいたのに

 

その日になりて 思い忘るる
その日になって、依頼を忘れていて

 

絵など描きて得たる
(当日になって、思ったのと違う)絵などが描かれた扇を渡された時は興覚め

 

産養(うぶやしない) 馬(むま)のはなむけ(※)などの
出産後の祝宴、旅立ちの餞別などの

※旅人を見送る人が馬の鼻を出発の方角に向け、無事を祈ったことが云われとされる

 

使いに禄取らせぬ
使いの者に心付けを渡さないのは興ざめである

 

はかなき薬玉(くすだま) 卯槌(うずち)など
ちょっとした薬玉(※1)、卯槌(※2)などを

※1 5月5日の端午の節句に合わせて、邪気を祓うおまじないの飾り物

 

※2 正月初めの卯の日、邪気を祓うために桃の木片に糸をあしらったおまじないの飾り物



持て歩(あり)く者などにも なお必ず取らすべし
持って歩く者たちにも、必ず心付けを渡すべきである

 

思いかけぬ事に得たるをば
思いもかけない時に、心付けをもらえば

 

いと甲斐ありと思ふべし
とてもやり甲斐があると思うはずである

 

これは必ずさるべき使と思い
相手は、これはきっと心付けをいただけるお使いだと思って

 

心ときめきして行きたるは
心をときめかして、出向いたところ

 

ことにすさまじきぞかし
(心付けも何もないのは)とても興ざめである

 

婿取りして 四 五年まで
婿を迎えて、4~5年経っても

 

産屋(うぶや)の騒ぎせぬ所も いとすさまじ
産屋の騒ぎがない家も、とても興ざめ

 

大人なる子どもあまた ようせずは 孫(むまご)なども
成人した子どもがたくさんいて、悪くすると孫たちも

 

這いありきぬべき人の親どち 昼寝したる
這ってまわっていそうな人の親同士が、昼寝をしているの

 

かたはらなる子どもの心地にも
そばにいる子どもの気持ちにしても

 

親の昼寝したるほどは 寄り所なく すさまじうぞあるかし
親が昼寝をしている間は、頼る所がなく、それこそ興ざめなのものである

 

師走のつごもりの夜
12月の末の夜

 

寝起きてあぶる湯は 腹立たしうさえぞ おぼゆる
寝ていたのを起きて、浴びる湯は身体に悪く、腹立たしくさせ感じられる

 

師走のつごもりの夜の長雨
12月末の夜の長雨は

 

「一日ばかりの精進潔斎(しょうじんけさい)」とや 言ふらむう
「一日ぐらいの精進潔斎」と、言うのであろうか(※)

※ 精進潔斎とは、神事や仏事の前に、心身の穢れを清めること。能因本では「百日ばかりの精進の懈怠とや言うべからむ」(百日の精進が、わずか一日の懈怠で無駄になったと言うようなもので興ざめである)

 

 

第23段 「すさまじきもの」<了>

 

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