第27段 心ときめきするもの
心ときめきするもの
期待や不安で心がドキドキするもの
雀の子飼 稚児(ちご)遊ばする所の前渡たる
スズメの子を飼う時、幼い子どもが遊んでいる前を牛車で通る時(※)
※ スズメの子が逃げたり死んだりしないか、幼い子供が牛車にひかれたりしないかと思ってハラハラする
よき薫物(たきもの)焚きて 一人臥(ふ)したる
上質の香を焚いて、一人で横になっているとき
唐鏡(からかがみ)の少し暗き 見たる
異国の鏡に少し曇りがあるのを見たとき(※)
※ 解釈には諸説があり、当時の中国の上質な鏡には曇りが生じることがあったという説や、鏡が曇ることで自分が美しく見えるさまを書いたものという説。また中国には宝鏡という不思議な鏡があり、人の心を映し、妖怪の存在を見破ったとされた。この鏡は日食や月食が近づくと曇りが生じたことから、この唐鏡がこの宝鏡のようであるように思え「心ときめく」という説など
よき男の 車とどめて
身分の高い男が、女の住まいに牛車を停めて
案内(あない)し 問わせたる
従者に取次ぎをさせて、何かを尋ねている時
頭(かしら)洗い 化粧(けさう)じて
髪を洗い、お化粧をして
香(こう)ばしう しみたる衣(きぬ)など着たる
香を移した着物などを着ているとき
ことに見る人なき所にても
誰かが見るということもない所でも
心の内は なおいとおかし
自分の心の内は、やはりとても楽しいもの
待つ人などのある夜
待つ人などがある夜に
雨の音 風の吹きゆるがすも ふと驚かる
雨の音や、風の吹き揺るがすのにも、待ち人が来たのかとふと驚かされ、そんなことも心がときめく
<了>