作家の佐藤愛子さんの本を読む。雑誌の女性セブンに連載されたエッセイをまとめた一冊だ。
本が書かれた当時、佐藤さんは93歳、「お元気でなによりですねぇ」と言われそうだが、本のタイトルは「90歳。何がめでたい」・・・何やら挑戦的だ。
身体が思うように動かず、耳が聞こえにくいなどに加え、世の風潮についていけず、嘆くことしきりだが、「昔はよかった」といった懐古趣味はなく、どこか吹っ切れたような明るさがある。体力の衰えはあっても、気持ちの衰えには縁がないようだ。
エッセイは日々の出来事や、出会った人々とのやり取り、思い出話などが綴られる。文章を生業にされているだけあって、内容は軽妙でも、しっかり読ませる。身近な話題を題材にして、社会に対する「べき論」を唱えないのも清々しい。
佐藤さんは、何の不足もない平穏な暮らしの中では考え込むことがなく、そんな生活からは強さや自立心は生まれず、依存心ばかりが高まることに気づかされる。
かつては「憤怒の作家」と称されたこともあって、気持ちの弱い人に気合いを入れることしきりである。新聞の人生相談に寄せられる悩みについて、自らが回答者となってこんな考えを綴っている。
50代の女性からの「田舎の近所付き合いが憂鬱」という相談に対して、「そんな奴にははっきり言った方がいいんです。『私、そんな話はしたくないの』とね」
そして、仮想の読者とのやり取りを想像しながら、「佐藤さんのお話はわかるけど、私にはできない、無理です」という発言に対して、「自分の弱さと戦う! 戦わないで嘆いているのは甘ったれだ!」と書きながらボルテージが上がってくるのがこちらにも伝わってくる。
大学で学ぶ20代の女性からの、同級生の男子学生が不潔で、学生課に相談したもの解決されず、このままでは大学に通えなくなりそうです、という相談については、「何も言えず学生課に相談したり、新聞に投稿して回答を待つというような手の込んだことをするなんて、そういう人は「気弱」なんてものじゃない。私に言わせれば「怠け者」だ」
そして別の章では、「ふりかかった不幸災難は自分の力でふり払うのが人生修行というものだ」と、勇ましい。
佐藤さんはこれまで、数々の災難に見舞われてきた。原因は自らの我儘や協調性のなさ、それに猪突猛進な性格のためだそうで、艱難辛苦は自分で解決するしかないというのが信条なのだろう。
地声が大きく、よくしゃべるから、他人は元気なばあさんだと思い込むのが、一番、困るそうだが、紙面からは活力や闘争心が伝わってきて、思わず背筋が伸びそうだ。佐藤さん自身、何か事が起こると「逃げてはいけない、戦わなければ」という気持ちがムラムラと湧き出てくると書いている。
読者からの「佐藤さんみたいに強く生きたい、コツを教えて欲しい」という手紙には、「コツ? そんなものあるかい」となんともすげない。
発売された続編も、心を強したい方にはきっと良薬でしょう。
九十八歳。戦いやまず日は暮れず | 佐藤 愛子 |本 | 通販 | Amazon
確かに最近は、私の見聞きする狭い範囲でも、気持ちの弱い人が増えているような気がする。人間関係の些細なことでふさぎ込み、ちょっとした失敗で自分はダメだ落ち込む、そんな人が珍しくない。
強い気持ちを持つにはどうすれば良いか・・・、私の場合、具体的にこうすればよいと教えてくれたのは中村天風さんの本だった。同氏の存在を知った時は、すでに人生の折り返し地点を過ぎていたが、本で書かれたことを実践し続けることで、気持ちは強くなり、人生が好転したと思っている。
気持ちが弱くて悩んでいる人は、一度、手にとってみてはいかがだろう。佐藤愛子さんのように強く生きることができるかもしれない。