よもやま茶飯事

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「AIに負けない人材を育成せよ」という番組を観た

2019年4月25日に放送されたNHKクローズアップ現代+ “AIに負けない”人材を育成せよ 企業・教育最前線 を観た。要点をメモしながら情報を補足して、感想を書いてみる。


2030年には労働人口の約50%がAI・人工知能やロボットに取って代わられるという予想がある。この調査はオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン(Michael A. Osborne)准教授の『The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation? (『雇用の未来 コンピューター化によって仕事は失われるのか)』という論文からの引用だ。

 

将来なくなるのは定型的な業務や、経験の蓄積がモノを言うといった仕事だ。また窮地に立つのは論理的な思考や専門的な知識を活かして仕事をしてきた人たちだ。

 

私たちがイメージする従来の「〇〇業」という仕事や職業がもたらしていた価値(=利益)の源泉はAIに取って代わられるため、会社は社員の①クリエイティビティー(創造力)、②ホスピタリティー(接客力←この訳は感心しない)、そして①と②を引き出すマネジメントの3つを使って、新たな価値を生み出せるようにビジネスの中身を転換していくことが求められる。マネジメントはやりくりする力とでも解釈すればよいだろう。

 

個人も同様だ。①のクリエイティビティーを発揮するためには、発想力を高めることやユニークな着眼点を持つことが求められるだろう。人と違うアイデアに価値があり、そのためには人と異なる行動を意識するのが良いかもしれない。例えばグーグルの検索でいつも上位に来るページだけを見ていると、他人と同じ情報しか得られず、同じ結論に至ってしまう恐れがある。

 

また②のホスピタリティーの発揮には、コミュニケーション能力や他者の気持ちを察し、共感・協調して仕事を進める能力が求められる。この能力は元々、人間に備わっており、ベストセラーとなった「ホモ・デウス」の著者、ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)も本の中で、「私たち(人類)の世界征服における決定的要因は、多くの人間同士を結び付ける能力」であり、「人間が地球を完全に支配しているのは・・・ホモサピエンスが大勢で柔軟に協力できる地球上で唯一の種だからだ」(上巻・p165)と記している。

 

人工知能で利用されるビックデータのイメージ写真

 

そして、番組ではAIやロボットに仕事を代替されないためには、人間しかできない能力に磨きをかけることであるとし、その一つは、言葉の意味を理解した上で「総合的な判断」をすることだと言う。『総合的な判断』というのはちょっとわかりにくいので、少し掘り下げて考えてみる。

 

現在のAIは文法を論理的に理解させる自然言語処理が難しく、文章を読んでもその内容が理解できない。そのため確率を用いて一見、正解に至るように見せている。これについては、新井紀子氏の「AI vs 教科書が読めない子どもたち」にわかりやすい記述がある(P49)

 

それによると、AIに「モーツァルトの最後の交響曲と同じ名前の惑星は何か」という質問をすると、AIはインターネットで、「モーツァルト」「最後」「交響曲」という3つの単語が出現するパターンの「共起関係」を計算で求め、特定のサイトに辿り着く。次に「惑星」に関する別のサイトを探し、惑星の名前の一覧が書かれているページを見つける。そして、両者に共通する単語を見つけ、答えである「ジュピター」を正解として出力するという仕掛けになっている。

 

このようにAIは文章を読んで、その内容を理解し、判断しているでは訳ではない。このため人間の自然言語処理能力を超えることができない。つまり書かれた文章を理解した上で、相手と言葉を交わし、ひらめいた発想を活かすことによって新たな価値(利益)をもたらすことができるのは人間だけということになる。

 

こうした能力を備えて活かせる人がAIに使われるのではなく、AIを使いこなしていける、あるいはAIと共存できるのではないだろうか。そんな能力なんて誰にでもあるじゃないかと思われそうだが、新井氏の本を読めばそうではないことがわかる。若者たちの多くは教科書に書かれた文章の意味を正しく読み取れない。

 

また大人もスマホの普及で相手と顔を合わせてコミュニケーションをする時間は減り、情報の洪水により、自分の考えをじっくり醸成する余裕もないというのが実情ではないだろうか。

 

自分一人でAIに立ち向かうような状況になると到底勝ち目はなく、低賃金で働くことを余儀なくされる。すでに働く人の間の所得格差は広がりを見せ始めている。AIのもたらす影響が徐々にではあるが確実に浸透している。