第13段 ひとり灯のもとに
ひとり灯(ともしび)のもとに 文を広げて
一人で灯りの下で、書物を広げて
見ぬ世の人を 友とするぞ
見も知らぬ世の人を、友とすることこそ
こよなう慰むわざなる
こよなく心が慰められるものである
文は文選(もんぜん)のあわれなる巻々(まきまき)
書物は文選(※)の感銘深い巻
※中国、南朝・梁(りょう)の昭明太子、蕭統(しょうとう)が編纂した詩集。全30巻に約800あまりの作品が記されている
白氏文集 老子の言葉 南華(なんくわ)の篇
白氏文集(※)や老子の言葉、莊子の書物
※中国・唐の詩人、白楽天の詩集
この国の博士どもの書ける物も
日本の学識のある者たちの書いた物も
古(いにしえ)のは あわれなること多かり
昔のものは、感銘深いものが多い
<第13段 了>
【おまけ】
この段だけ読めば、読書の楽しみについて述べたように思えます。
しかし前段の 第12段 では同じ心を持つ人はこの世にはいないと述べて、この段では「見も知らぬ世の人を友とすることこそ、こよなく心が慰められる」と記しています。
現実世界とは距離を置いたような兼好法師の寂寥感が伝わります。