よもやま茶飯事

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読書メモ 『ヒトはなぜ「がん」になるのか』

人類にとっての最大の脅威は何だろう? 核戦争か、新型感染症か、それとも地球温暖化か、人によって答えは違うだろうが、間違いなく上位に入るのが「ガン」だろう

 

ガンという病気は古代ローマ時代にすでに知られていた。それから2000年以上経過した今も恐れられる存在であり続けている。ガンとは一体何か、どういう仕組みで生じるのか、なぜ特効薬や決定的な治療法が見つからないのか・・・

そうした疑問に答え、過去から現在に至るまでの研究成果や治療方法、そしてガンとの向き合い方を指し示すのが本書の著者、キャット・アーニー(Kat Arney)だ。

 

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Kat Arney(キャット・アーニー)

著者によれば、ガンは生物の基本システムに組み込まれたバグであり、あらゆる生物はガンになる。ガンは適応と進化を繰り返す可変的で複雑なシステムであり、細胞社会のルールの全てを破る存在だ。規律ある社会における反社会的集団と言える。

 

ガンは、1922年に明らかにされた 体細胞突然変異説 を出発点に進められた研究により、DNAの病気であることがわかっている。またウイルスが原因となる場合もある。DNAの塩基配列を高速かつ安価に読み取れる技術(シーケンサー)によって、ガンには2つの遺伝子が関わっていることも明らかになっている。

 

その一つは細胞の増殖を駆り立てる遺伝子、もう一つはガンを抑制する遺伝子だ。これらが2つとも故障することでガンが発生する。だが私達の身体には年齢を重ねるに連れ、遺伝子が変異した数多くの細胞が見つかる。細胞が変異しただけではガンにならず、何の問題もなく生きている。では何が原因でガンが腫瘍になり病になるのか?

 

その疑問に答えるのが 環境適応発がん説 だ。生物は自然選択により環境に適応する。変異した細胞も環境変化という自然選択により自らが進化することもあれば、ライバルとなる細胞が死滅することで増殖を始めることもある。

 

さらにガン細胞は多様性に満ちている。同じ人の同じ部位のガン細胞であっても遺伝子は異なっている。これが現在の抗がん剤の大量投与という治療が抱える問題点の背後にある。抗がん剤が効くがん細胞が死滅することで、薬に耐性をもち生き残ったガン細胞が活気づき、新しい主役として勢力を拡大する。

 

スマートドラッグを用いた精密療法(プレシジョン・メディスン)や、チェックポイント阻害剤を用いる免疫療法、複数の薬剤を混ぜ合わせるカクテル療法といった最先端の治療が決定打にならないのはこのためだ。いずれの治療法も耐性を備え生き残ったガンが増殖してしまい、早晩、使える薬がなくなる。

 

こうした現状に対し、著者が注目するのが 適応療法 だ。効き目がある抗がん剤を大量に投与し続けるのではなく、一定程度のがん細胞を生き残らせ、抗がん剤に耐性を持つがん細胞を増殖させないようにする。庭に生い茂った雑草に農薬を撒いてすべてを取り除こうとするのではなく、ある程度弱らせるだけにとどめ、農薬の効かない雑草が成長するのを抑えるようなイメージだ。ガンを撲滅させるのではなく、進行ガンを計画的に管理し、長期的にコントロールし続ける。これはガンと共存する道だ。

 

ガンは宿主の死によって自らも滅するため、生存中に得られた知識や経験を未来に引き継ぐことはできない。だが人間はガンから学び、それを予防や次の治療に活かすことができる。現時点ではガンを完全に撲滅できないかもしれないし、また撲滅しようとしてはいけない。ガンと長きに渡って付き合うことが今の最善の治療法なのかもしれない。

 

 

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「ヒトはなぜ「がん」になるのか」
キャット・アーニー・著
河出書房新社・刊 税別2250円

 

 

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